2023年ということは、Fenderのテレキャスターのピックガードの固定ビスがマイナスからプラスに変更されておよそ70年が経ったわけですね。
細かい仕様は変われど基本構造は変わらずに残っている
基本構造が変わっていないのは構成するパーツも同じで、エレキギターがエレキギターたる所以のピックアップも永久磁石に針金を巻きつけただけのシンプルな構造を守り続けています。
エレキギターにとって重要な心臓部ピックアップ、よく見かけるのは「アルニコ」という表現でしょうか。今回はアルニコマグネットのお話です。
アルニコとは
アルニコ(Alnico)という名称は造語で、アルミニウム(ALuminum)、ニッケル(NIckel)、コバルト(CObalt)の頭2文字ずつから来ています。合金の永久磁石の名称です。
「Ⅱ」、「Ⅲ」、「Ⅳ」、「Ⅴ」、「Ⅷ」がalnico vのようにアルニコの後ろに数字がつけられていますがこれは配合比率からくる合金の微妙な特徴を表しており、磁力の強さの違いも判断することが出来ます。
磁力の強さに応じて数字が大きくなっているわけではなく、磁力の強さで並べ替えると小さいほうから順に「Ⅲ」、「Ⅱ」、「Ⅳ」、「Ⅴ」、「Ⅷ」となります。
ちなみに、冒頭に出てきた1950年代のテレキャスターはアルニコIIが採用されていました。
fender.comでは甘く枯れたサウンドが特徴と紹介されています。
同じくfender.comにアルニコIIIは最も磁力が弱くコバルトを含んでいないと表記があり「それってアルニコじゃなくてアルニやん。」と思わずツッコミたくなりましが、アルニコIIIは調べていてさらに興味を駆り立てるマグネットでもありました。
海外のピックアップブランドのサイトに「減磁してローパワーになったヴィンテージPAF(ネックポジション)の再現にアルニコIIIを使う」とあり、いかにアルニコの種類がサウンドに影響を与えているかが伺いしれる情報でした。
※減磁(磁石の磁力が下がる現象)には種類があり、ギターピックアップの経年変化について肯定的な意見や懐疑的な見解もあるので割愛させていただきます。
Alnico5誕生
アルニコ磁石自体を調べていると日本電気技術者協会のページに永久磁石発展の歴史について解説があったので読んでいると、じつはアルニコ磁石は日本での発見が誕生の礎であったようです。
“はじめに人工的に新合金による永久磁石の発明者として世界の学会の目をみはらせたのは、1917年(大正6年)本多光太郎のKS鋼”
“その後も長く研究を重ね、組成を更に組み替えて1933年(昭和8年)には、最初のKS鋼の4倍近い保磁力をもつ新KS鋼を発明し、その功績で文化勲章を受賞している。”
“当時KS鋼はドイツのシーメンス・ハルスケ社、アメリカのウェスチングハウス社から特許使用許可を申し出てきたほど画期的なものであった。”
“1931年、MK磁石が東京大学の三島徳七により開発された。この磁石は保磁力がKS鋼の2〜3倍あり、磁気的に安定でコバルトを含まない安価な磁石として工業生産された。中心となる組成は鉄、アルミニウム、ニッケル、銅などである。”
“1933年の本多光太郎等の新KS鋼は、このMK鋼にコバルトやチタンを含ませたことが特徴になっており、MK鋼の約1.5倍の保磁力を有していた。MK鋼や新KS鋼の高磁気特性は、更にその後のアルニコ磁石の誕生の礎(いしずえ)となった。”
“コバルト量の多いアルニコ磁石の効果が確認された結果、1940年ごろ、アメリカのGE社から商品名Alnico5(ジョナスの発明)が工業生産された。このアルニコ磁石の組成はアルミニウム8%、ニッケル14%、コバルト24%、銅3%、残りが鉄である。”
“その後更に改良が進み、1957年ごろにオランダのフィリップ社からAlnico8が登場することになるが、なんといっても本多光太郎の新KS鋼がアルニコ磁石の元祖とされる所以は、これらが保磁力を高めるために、チタンと多量のコバルトを添加していることである。”
なんと、アルニコ磁石は日本での発見から誕生した代物だったんですね。
とても磁力が強力かつ耐久性の高い磁石があったからこそエレキギターのピックアップが誕生できたとも言えるのでエレキギター誕生の影には歴史的な発見も大きく寄与していたのを知ってアルニコを調べて良かったと思いました。
現代でも普遍的な構造としてエレキギターのピックアップにアルニコが残っている。
そこに20世紀に発明された道具である名残を残していることに感慨深くなった次第です。
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