塗膜に入ったひび割れのうち、外気に曝されたことや環境の変化によって引き起こされたものをウェザーチェック、ウェザークラック(weather check,weather crack)と呼びます(一応、そのヒビが塗膜表層に留まる場合は『チェック』、被塗装物にまで達している場合は『クラック』とヒビの深さでの呼び分けが定義されていますが、ギターの世界では同じような意味で使われています)。
塗膜には、それが形成されたときからあらかじめ内部に応力が存在します。そして被塗膜物(木材)が気温や湿度の変化で膨張・収縮したり、経年により痩せたりすると、塗膜にかかるストレスは大きくなります。
また、紫外線や酸素に曝されることで塗膜の分子間のつながりが破壊される、経年により塗膜に残留している成分の揮発が進み塑性が失われる、といった様々な要因で塗膜の引張強度は徐々に低下します。
そして塗膜の引張強度を内部応力が上回ったときにひび割れが発生します。
ビンテージギターが作られた当時のニトロセルロースラッカーの耐候性は現代のポリウレタンやポリエステルといった樹脂系の塗膜と比べ、はるかに脆弱です。また塗料の肉持ちが悪く厚塗りも難しいため、結果として非常に薄くなっています。当然、ウェザーチェックは起こりやすくなります。
あまりにも剥がれがひどい場合にはリフィニッシュが必要となる場合もありますが、ラッカーフィニッシュにおけるウェザーチェッキングは素材の特性、持ち味と言えるものであり、何より『木材とフィニッシュが良くなじんで成熟した印象』や『弾き込まれたビンテージ感』のアイコンとして、肯定的に捉えられることがほとんどです。
現在では作業者の健康面への配慮といった観点からも大量生産される楽器にニトロセルロース塗料が用いられることはまずありません。樹脂系の塗装はラッカーと比べ施工が容易く、仕上がった塗膜は厚く強靭です。その一方で塗膜の厚みは音の伝達を妨げるという考えもあり、昔ながらの薄いラッカーフィニッシュを追求する工房も根強く支持されています。
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