『Burst Believers』表紙の名器を追ったGibson Historic Selectの特別モデル 

Gibson Custom Shop Historic Select 1959 Les Paul Reissue BB Cover Burst Hand Select Top 2015年製

1959 Les Paul Reissue、通称「R9」。

Gibson Custom Shopを代表するモデルであり、1959年製Les Paul Standardという歴史的名器を現代に蘇らせるため、長年にわたって改良が重ねられてきました。

しかし、今回ご紹介する一本は、単に「完成度の高いR9」というだけではありません。

トップを見た瞬間に目を奪われる、大きく揺らぐフレイム。

そして本器に付属する「HAND SELECTED」の資料には、July 2015の日付とともに、ある興味深い文字が残されています。

“BB COVER”

この言葉をたどっていくと、本器が目指していたものが見えてきます。

それは「1959年製Les Paul Standard」という大きな括りだけではありません。

世界的なBurstコレクターとして知られるVic DaPra氏が所有し、著書『Burst Believers』の表紙を飾った1959 Les Paul Standard。

シリアルナンバー9-0850。

通称、“Believer Burst”。

本器は、その世界的に知られる一本のルックスを意識して作られたHistoric Selectです。

では、なぜこのモデルが特別なのか。

その背景から紐解いてみましょう。

「1959年製レスポール」ではなく、“あの一本”を目指したR9

Historic Collectionの1959 Les Paul Reissueは、1959年に製造されたLes Paul Standardというモデルそのものを再現していくシリーズです。

しかし、ヴィンテージのBurstは一本一本が同じではありません。
トップの杢。
ネックシェイプ。
塗装の褪色。
トップカーブ。
重量。
そして、数十年という時間を経て刻まれた傷や変化。
同じ1959年製であっても、それぞれに異なる個性があります。

Gibsonがかつて展開していたCollector’s Choiceシリーズは、まさにその領域へ踏み込んだ企画でした。

Gibson側の関係者もCollector’s Choiceについて、コレクターが所有する重要なヴィンテージ個体へ実際にアクセスし、それをスキャン、計測、記録することで、その一本を再現することに意味があったと振り返っています。

そして今回のHistoric Selectも、通常のR9からさらに一歩踏み込んだ一本です。

ただし、Collector’s Choiceのように9-0850そのものを徹底的に複製したモデルというわけではありません。

本器が焦点を当てているのは、9-0850が持つ強烈な視覚的個性。
そのトップとバーストカラーです。

つまり、
「1959年製Les Paul Standardを再現する」
というR9本来のテーマに、
「9-0850のような一本にしたい」
という、さらに具体的な狙いが加えられているのです。

Historic Selectとは何だったのか

この一本を理解するためには、まず「Historic Select」という少し特殊なシリーズについて知る必要があります。

2015年、Gibson Custom ShopはTrue Historic Seriesをスタートさせました。

従来のHistoric Collectionで積み重ねてきた研究をさらに推し進め、プラスチックパーツの材質や製法、ボディやネックのシェイピング、塗装工程など、1950年代のLes Paulをより細部まで追求したシリーズです。

2015年当時のGibsonディーラー向け資料を紹介した記録からも、True Historicが同年に登場した新シリーズであったことや、オリジナルパーツを分析してプラスチック類を作り直すなど、再現性を高めるための大幅な見直しが行われていたことが確認できます。

Historic Selectは、そうしたTrue Historic系の高い再現性をベースとしながら、さらにファクトリーで選定した木材、カスタムカラー、ピックアップ、ハードウェアなどを指定できる、セミオーダー的な性格を持ったシリーズでした。

つまりHistoric Selectとは、
決められた仕様の完成品を選ぶだけではなく、「どんなR9を作るのか」という企画段階からディーラー側の意図を反映できるシリーズだった
ということです。

そして本器のバックパネルには、Thom Fowle氏のサインも残されています。

Fowle氏は2015年当時、国内ディーラーによるGibson研修の記事の中で、Gibson Customの「Trade Channel Manager」として紹介されていた人物です。

もちろん、このサインだけをもって本器の製作経緯や希少性を断定することはできません。

しかし、ディーラーとGibson Custom Shopが密接にやり取りしながら特別仕様を作り上げていたHistoric Selectという企画背景を踏まえると、本器に残された興味深いディテールのひとつと言えるでしょう。

『Burst Believers』とは

本器を語るうえで欠かせないのが、『Burst Believers』という一冊の存在です。

『Burst Believers』は、世界的なヴィンテージLes Paulコレクターとして知られるVic DaPra氏による書籍です。

1958年から1960年にかけて製造されたSunburst Les Paul、いわゆる“Burst”に焦点を当て、数多くの貴重な個体を豊富な写真とともに紹介しています。

同じ時代、同じLes Paul Standardというモデルでありながら、一本ごとに異なるトップの杢やバーストカラー、褪色の仕方、長い年月を経て生まれた風合い。

そうしたオリジナルBurstならではの個体差と魅力を、一冊を通して見ることのできる資料性の高い書籍です。

そして、その『Burst Believers』の表紙を飾ったのが、Vic DaPra氏自身が所有する1959 Les Paul Standard。

シリアルナンバー9-0850。

通称、“Believer Burst”です。

数あるオリジナルBurstの中から本の“顔”として選ばれたその一本は、大きく広がる印象的なフレイムと、独特のバーストカラーを備えています。

本器に付属するHAND SELECTEDの資料には、
“BB COVER”という文字が残されています。

さらに、同時期のHistoric Selectには「Believer Burst」や「BB Cover Burst」と呼ばれる仕様が実際に存在し、『Burst Believers』の表紙を飾る9-0850をモチーフとしていたことが当時の記録から確認できます。

つまり本器を理解するためには、単に「特別なカラーのR9」として見るのではなく、
『Burst Believers』の表紙となった、あの1959 Les Paul。
その姿がひとつの重要な背景にあることを知る必要があります。

では、その9-0850とは、どのようなLes Paulなのでしょうか。

『Burst Believers』の表紙を飾った1959 Les Paul “9-0850”

Gibsonは9-0850を、Collector’s Choice #9として正式に復刻しています。

当時のGibson Custom公式資料にも、はっきりと

9-0850 aka “Believer Burst”

と記載されています。

その資料によれば、このギターが広く知られるきっかけとなったのは1980年。

南カリフォルニアのヴィンテージギターディーラーが『Guitar Player』誌に掲載した広告へ、1959 Les Paul Standard、シリアル9-0850が登場します。

そのトップに魅せられた人物の一人が、Vic DaPra氏でした。

しかしDaPra氏はすぐに手に入れることができず、その後、長い年月にわたってこの個体を追い続けます。

そして2008年、ついに9-0850を自身のコレクションへ迎えることになります。

2013年にはDaPra氏の著書『Burst Believers』が刊行され、その表紙を飾ったのも、この9-0850でした。

この個体を特徴づけているのが、何と言ってもそのメイプルトップです。

Gibson自身も9-0850について、大きく広がるチェヴロン状のフィギュアを持つ、著名かつ美しいオリジナルBurstの一つとして紹介しています。

細く均一に並んだ、整然としたフレイムではありません。

大きくうねりながら左右へ広がり、場所によって強く現れ、見る角度によってその姿を変えていく。

「木」という自然素材が生み出した不規則さを残したまま成立している美しさです。

そして、その印象的なトップを持つ9-0850が、『Burst Believers』という本の“顔”になったのです。

このモデルの選定材の選ばれた基準は、美しさというよりも”似ている”か

ここで、今回のモデル名に含まれるもう一つの重要な言葉へ戻ります。

Hand Select Top。

この言葉だけを見ると、

「通常よりグレードの高い、きれいなフレイムメイプルを使用したモデル」

と捉えてしまいがちです。

しかし、Historic SelectにおけるHand Selectの面白さは、単純な杢の派手さだけではありません。

2015年当時、国内ディーラーの担当者がナッシュビルのCustom Shopへ赴き、並べられたメイプル材の中から実際に使用するトップを選定していたことが、複数の記録から確認できます。

つまり、

「一番杢が強いもの」

「一番左右対称なもの」

を機械的に選んでいたわけではありません。

どんなカラーに仕上げるのか。

どんなヴィンテージBurstをイメージするのか。

完成したときに、どのような表情を見せてほしいのか。

そうした完成像を思い描きながら、使用する木材を選ぶことができました。

BB Cover Burstというテーマでは、ここが特に重要になります。

目標となる9-0850には、すでに強烈な“顔”があります。

ですから必要なのは、単にAAAやAAAAといったグレード感を誇示するためのメイプルではありません。

9-0850を思わせる表情を持ったメイプル。

その観点からトップを見ると、本器におけるHand Selectという言葉の意味も変わってきます。

美しい木材だから選ばれた。

それだけではなく、目指すべきBurstがあり、そのイメージへ近づくために木材を選ぶ。
Historic Selectだからこそ可能だった、非常に贅沢な作り方です。

BB Cover Burst ― 杢だけでは再現できないヴィンテージBurstの表情

しかし、9-0850らしさはメイプル材だけでは完成しません。

もう一つ重要なのが、バーストカラーです。

オリジナルの1958~1960年頃のSunburst Les Paulは、製造された瞬間から現在見られるような色だったわけではありません。

紫外線や時間の影響によって赤系の染料が褪色し、それぞれの個体が異なる表情へと変化していきました。

その結果として生まれたカラーは、現代ではLemon、Tea、Faded Cherryなど、さまざまな言葉で表現されています。

9-0850の魅力も、トップの杢だけを切り取って説明することはできません。

赤味を残したバースト。

その内側に広がるアンバー。

そして、フィニッシュの下から浮かび上がるワイドなフレイム。

それらが重なることで、あの独特の表情が生まれています。

Historic Selectにおける「BB Cover Burst」というカラーコンセプトも、まさにそこを狙ったものです。

本器のHAND SELECTED資料に残された「BB COVER」という指定と、同時期に展開されていたBeliever Burstの記録をあわせて考えると、『Burst Believers』表紙の9-0850が持つ色と杢の組み合わせを意識したモデルであることが、このカラー名から読み取れます。

フレイムだけを見るのではなく、

その上にどのような色が重なっているのか。

そこまで含めて眺めたいトップです。

同じ9-0850をモチーフにした「Collector’s Choice #9」

ここまで読むと、一つ疑問が浮かぶかもしれません。

「9-0850を再現したLes Paulなら、Collector’s Choice #9があるのでは?」

その通りです。

そして、ここは本器を理解するうえで非常に重要な違いです。

Collector’s Choice #9は、9-0850そのものを再現するために作られたモデルでした。

Gibson公式資料によると、Vic DaPra氏の協力のもとオリジナル個体へ直接アクセスし、その形状を計測。

Gibsonはネックシェイプ、トップカーブ、カラー、経年変化など、現在の9-0850が持つ特徴を一本のレプリカとして再現しています。

公式資料では生産数についても、最大100本のAgedモデルとされ、条件を満たす材料の確保状況によって最終的な本数が決まると記されています。

つまりCollector’s Choice #9では、

「9-0850そのもの」

が製作のゴールです。

一方、今回のHistoric Selectはそうではありません。

Historic Select 1959 Les Paul ReissueというR9をベースに、

ハンドセレクトされたトップとBB Cover Burstというカラーによって、

「9-0850のルックスを採り入れる」

というアプローチです。

ネックシェイプから傷の位置に至るまで9-0850を複製するCollector’s Choice #9とは、そもそもの目的が異なります。

ここを混同してはいけません。

しかし逆に言えば、その違いこそHistoric Selectの面白さでもあります。

完全なレプリカではなく、

R9という枠組みの中で、

「こんなBurstが欲しい」

という理想を具体化する。

Collector’s Choiceとは異なる方法で、オリジナルBurstへの憧れを形にした一本なのです。

2015年、Gibson Custom ShopがHistoricの再現性をさらに突き詰めた時代

そして、本器が製作された2015年という年にも大きな意味があります。

この年、Gibson Custom ShopはTrue Historicをスタートさせました。

1950年代のLes Paulへさらに近づくため、細かな樹脂パーツの素材や成形方法を再検討。

ボディとネックのシェイピングにも手作業の工程を増やし、塗装工程やフィニッシュについても見直しが行われました。

Historic Selectも、そうしたTrue Historic由来の仕様を基本としながら、ファクトリー選定材やカラー、パーツなどをカスタマイズできるモデルとして当時展開されています。

本器についても、チューブを使用しないヴィンテージスタイルのトラスロッド、ネックおよび指板接着へのニカワの使用、ロング・スタッド&アンカーなど、この時期のHistoric系モデルを象徴する仕様が確認されています。

つまり、このギターは、

美しいトップを載せて、9-0850風の色を塗っただけのLes Paulではありません。

当時Gibson Custom ShopがHistoric Les Paulの再現性を大きく押し進めていたタイミングに、その高い基本仕様を土台として、

さらにHand Selectという方法で「どんな1959 Les Paulにするのか」という個性まで与えられたモデルです。

2015年という時代。

Historic Selectという仕組み。

Hand Selectされたトップ。

そしてBB Cover Burst。

これらの条件が重なったところに、本器があります。

なぜ、この一本を今紹介したいのか

1959 Les Paul Reissueは、これまで数多く作られてきました。

ですから、

「Gibson Custom Shop製のR9です」

というだけでは、本器の面白さはほとんど伝わりません。

この一本には、そのトップを選ぶ前から“目標”がありました。

シリアルナンバー9-0850。

Vic DaPra氏が長い年月をかけて追い求め、自身のコレクションへ迎えた1959 Les Paul Standard。

Gibson Custom ShopがCollector’s Choice #9として実物を計測し、復刻まで行った“Believer Burst”。

そして『Burst Believers』の表紙となった、その姿。

本器に残された、

“BB COVER”

というわずかな文字は、その背景へとつながっています。

1959 Les Paul Standardという名器を再現するR9。

そこからさらに踏み込んで、

「どの1959 Les Paulを思い描くのか」

という領域まで追求したHistoric Select。

美しいフレイムだから価値があるのではありません。

なぜ、このフレイムだったのか。

なぜ、このバーストカラーだったのか。

その理由をたどった先に、一本の本物の1959 Les Paulが存在する。

そこに、本器最大の魅力があります。

単なるスペックだけでは語ることのできない背景まで含めて、ぜひご覧いただきたい一本です。

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